広島高等裁判所 事件番号不詳〔2〕 判決
主文
原判決を取消す。
被控訴人は控訴人に対し金二万円を支払わねばならない。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。
被控訴人は昭和二十二年十月二十日金額二万円、満期同年十一月三十日、支払地及び振出地共尾道市、支払場所株式会社安田銀行尾道支店、受取人藤田儀平の約束手形一通を振出し、その後右手形は藤田儀平から控訴人へ裏書譲渡せられて現在控訴人の所持するところであるが、控訴人が満期になつて支払場所に臨み右手形を呈示して支払を求めたが拒絶せられたので被控訴人に対し右手形金二万円の支払を求めるため本訴に及んだ次第である。
被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。」との判決を求め答弁及び抗弁として次のとおり述べた。
控訴人主張の事実のうち裏書譲渡の点はこれを否認するがその他の事実はすべてこれを認める。しかしながら本件手形は藤田儀平の強迫により振出したものである。即ち被控訴人は昭和二十一年二月頃明石登から百十五馬力の発動機二台を買い受けたところ、昭和二十二年十月十八日藤田儀平が数名の者と共に被控訴人方へ来て「自分は右発動機に八万円支出しているのだから八万円支払え。支払わなければ八万円に相当する機械をこわしてやる」とおどしたので、被控訴人はいうことをきかなければどんなに莫大な損害をこうむるかも知れないとおそれて、右藤田に現金三万円のほか本件手形と一万八千五百円の約束手形一通とを渡したのである。そこで被控訴人は同年十二月十四日右藤田に対し書面を以つて強迫を理由として右二通の約束手形の振出行為を取消す旨意思表示をし、右書面は翌十五日に到達したので、右手形は無効なものとなり、被控訴人は本件手形にもとずく支払義務はないと述べた。(立証省略)
理由
被控訴人が控訴人主張の約束手形一通を振出したこと及び控訴人がその主張のとおり本件手形を呈示して支払を求めたが拒絶せられたことは当事者間に争がなく、本件手形が藤田儀平から控訴人へ裏書譲渡せられて現在控訴人の所持するところであることは成立に争のない甲第一号証の記載及び同号証が控訴人の手もとにあることに徴し明らかである。
そこで被控訴人主張の抗弁につき判断するに、強迫に因る手形行為の取消は手形法上いわゆる人的抗弁として善意の所持人に対抗するを得ないものと解するを相当とするところ、本件手形の所持人である控訴人は債権の準占有者として民法第二百五条、第百八十六条第一項により被控訴人主張の強迫の事実につき善意であることの推定を受けるものというべく、控訴人が悪意であることについては主張もなければ立証もないから、右抗弁は到底採用できない。
そうすると、被控訴人は控訴人に対し本件手形金二万円を支払うべき義務あること明らかであるから控訴人の請求は正当としてこれを認容すべきであるのに、これを棄却した原判決は失当としてこれを取消さなければならない。
よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。(昭和二五年五月三〇日広島高等裁判所第三部)